福田 和宏 選
感銘の一句
オレを見ろといわんばかりのお月様 岩渕 幸弘
雲一つない空に満月だけが輝く、そんな眺めが好きで帰り道に見とれることがあるが、上手く句に出来ずにいた。
感銘十句選
人間を休んで誰かのおばけとなるハロウィン 山根もなか
裏返っているコガネムシをひっくりかえす 井上 敬雄
素数はじけて自由律の句のしずく 加藤 武
ちぎれながらも進む雲がいい 荻島 架人
コロナ禍終わり恥ずかしながら口紅 ちばつゆこ
遮断機が降りて来たような別れだ 秋生 ゆき
幸せで淋しい高齢者住宅の暮らし 橋本登紀子
レジの後ろ気になり小銭袋ひっこめる 渡辺 敬子
味のない味噌汁で朝が来る 高鳥 城山
大海を見ず浜辺の貝殻拾ふ 秋 津
汐海 治美 選
感銘の一句
シーソーの子が帰って雀が乗りに来た きむらけんじ
シーソーの子も雀も、作者にとっては清少納言に倣えば、「うつくしきもの」であり、「小さきものはみなうつくし」の世界でしょう。こどもに代わって雀が「乗りに来た」と、目を細めておられる感じが伝わってきます。
感銘十句選
雨あがって自転車のカゴに花入れていく 井上 敬雄
素数はじけて自由律の句のしずく 加藤 武
百日紅背後の山まで真昼の火群です 大岳 次郎
さあさこちらへ涼やかな風を通す ゆきいちご
満月に似合うように新芽を切る 荻島 架人落ちた錠剤探す夜の幾何学模様 高木 架京
鏡に映った月まで磨き上げる いまきいれ尚夫
刑務所に有刺鉄線は空に刺さっている 小山 幸子
芙蓉が名前の形に揺れている 吉多 紀彦月の鼓動で女が転ぶ 谷田 越子
私は人々にかういふ。
君等が心の土に真実の種をおろせ。
君等が生活の上に生命の木を生ひ立たせよ。
大地の力を生きることの力とせよ。
太陽の光を生きることの光とせよ。
然らば、君等が生命の木はやがて多くの花をつけ多くの実を結ぶであらう。
(井泉水著『生命の木』「芸術より芸術以上へ」)